イゼルローンのタコ部屋。

イゼルローン攻略の謎

小説を読んでいて気にならなかった点にOVAで気がつくのは、文章を自分の想像で補完したイメージでしか捉えていなかったものが、映像化されることで、いわばシミュレーションされるからなんでしょう。というわけで、野暮を承知で愛の突っ込み入れさせていただきます。

一応、誤解がないようおことわりしますが、イロイロ突っ込んでますけど、作品自体を批判する意図はありません。イゼルローン攻略戦は銀英伝の中でもわくわくする大好きな部分です。それでもついこんなものを垂れ流してしまうのは、単に私が重箱の隅つつきなだけです。これも歪んだ愛(笑)

ヤンの作戦、つまり要塞を内側から陥とすというのは、主力の駐留艦隊を要塞から誘き出したのと入れ違いに、帝国軍の偽装船で要塞に侵入するというところがポイントだと思うんだけど、そもそもこの設定からちょっと無理がある気がする。ネックは以下3点。

1.どうやって駐留艦隊を誘き出すか?
2.現実問題として偽装船が怪しまれずに侵入できるか?
3.侵入できたとして、薔薇の騎士だけで要塞が制圧できるか?

1.については、誘き出すと同時に、双方の通信手段を断ち切って連絡が取れなくする必要がある。けど、実際問題として、要塞と駐留艦隊の連絡が取れなくなるってこと、軍事的には許されないと思うんですね。なったとしたら緊急事態で、まずそっちを回復することに全力投入するんじゃないか。ヤンは囮で駐留艦隊を要塞から誘い出したけど、敵の正体も兵数もわからないのにいきなり全軍を出動させるということは、現代の感覚では普通ありえない。少なくとも偵察部隊でも出してその兵力や指揮系統なんかを確認するでしょう。その後、駐留艦隊と要塞の意思疎通を霍乱した電波妨害にしても、軍用通信がそんな簡単に妨害されちゃ使い物にならないような。同盟軍にそれができるなら、通信技術的に帝国より上なわけだから、その時点で帝国軍より戦略的に遥かに優位ですね。

2.これはごくありきたりな疑問。普通船籍とか、乗員の軍籍確認とか真っ先にやるんじゃないかと。それともっと根本的な問題。もし帝国領と同盟領が要塞を境に分かれているなら、ヤンが用意した帝国軍の偽装船は、同盟領から要塞に近づかざるを得ない。要塞からしてみれば、同盟領側に自分の知らない帝国軍籍の船がいるってことは考えにくい。戦闘状態にあるとしたら、その状況を知らされていないのもおかしいわけです。普通、疑うよね。偽装船の進路さえも偽装できたんだとすれば、要塞は自分の周囲を通過する船すら索敵できないってことで、国境を守る要塞としての価値はありません。

3.例えば、NASAの宇宙センターを海兵隊だけで制圧できるかって考えてみる。ただ制圧するだけならできるでしょう。だけど制圧した上で機能させるなら、陸戦兵力以外に、凄腕の技術者集団が必要です。要塞司令官を楯に取っても、30分で武装解除させてヤン艦隊に入港指示を出すには、降伏した帝国軍兵士にやらせるしかない。ただでさえものすごいリスキーです。それがOVAみたいに内部の帝国軍に抵抗されて非常事態モードにされてしまっては、前もって要塞のコントロール機構を知ってでもいない限り、技術者集団を送り込んでもそう簡単に機能まで掌握できないと思います。いくらなんでも要塞のコンピュータや防御機構の情報がダダ漏れってことはないだろうし。

というわけで、ヤンの作戦が成功にするには、いくつか絶対条件が必要です。

まず、一つには、要塞司令官と駐留艦隊司令官が戦術のセオリーを無視した馬鹿であること。これはまあ、条件としては満たされていますね。

二つめ、同盟軍、帝国軍ともに、宇宙空間での通信状態が不安定であることが、物理的にも技術的にも前提となっていること。つまり、双方の動向が手探り状態で、簡単に連絡が取れなくなっても不審に思わない土壌があること。または、連絡に大幅なタイムラグがあること。なんで艦隊と連絡が取れなくて不審に思わないんだ、とかいうのは、詳細な世界地図が手に入ってどの国の軍隊がどこらへんにどれくらい居るか、正確でなくても大体わかるような現代の見方で、ちょっと前、少なくとも第一次世界大戦くらいまで遡れば、こういう状況のほうが普通だったかもしれませんね。そして、これも銀英全編における前提条件かもしれません。でなきゃ遭遇戦とかありえないわけだし。その割には、ヤンは前もって敵の動きを知って帝国軍には遭遇戦と思わせているようなケースもあるから(バーミリオン会戦のお膳立ての間とか)、どうも情報力にかけては同盟(というかヤン)のほうが遥かに優位に立っていたと考えたほうが良いのかも。だとしたら、もっと上手い方法がありそうだけどなあ、いろんなシチュエーションで。

三つめ、上の話と関連するけど、同盟軍側に帝国の軍籍や船籍を詐称できるだけの情報操作力があること。偽装船が偽装できるためには、少なくとも帝国軍用通信をハッキングできるだけの技術力・諜報力が必要です。でもそれができるんだったら、もっと上手い方法が(以下略)

イロイロ突っ込んでばかりいるけど、じゃあ実際どうすればいいんだよという反論は当然かと。ヤンの作戦構想自体は秀逸だと思います。駐留艦隊を要塞から引き離した上で、要塞を内部から制圧するというのは確かに有効です。問題はやり方で、1つ考えられるとすれば、偽の囮を使うんじゃなくて、ヤンの本隊が囮になって、本当に艦隊と交戦するという手です。駐留艦隊とほぼ同兵力を持って駐留艦隊のお馬鹿な司令官を挑発する。これならまず確実に駐留艦隊を誘き寄せられる。そして、それとは別動で要塞制圧部隊を送り込む。駐留艦隊との交戦が始まってからなら、戦闘不能になった帝国軍船が要塞に帰還するのもおかしくない。そして、薔薇の騎士の陸戦兵力にモノを言わせて要塞を制圧します。この時点で、機能までは掌握する必要はない。要塞機能を無力化すれば十分なので、なんだったら中枢コンピュータを一発ショートでもさせてぶっ壊してやればいい。

要するに、駐留艦隊と要塞と、別個にカタをつける作戦です。本隊は艦隊戦で駐留艦隊を破って、無力化した要塞に向かえばいい。同数の艦隊なら、ヤンなら勝てるでしょ。え? シトレ元帥は半個艦隊しかくれなかった? 魔術師なんだからそれくらいどうにかしなさい。でもこれだと劇的な無血開城にはなりませんね。地味で地道だ(笑) 味方にも確実に損害が出るだろうし。こういうことも考えた上であの無血開城作戦を取ったんだとすれば、ヤンって相当すごい度胸と精神力だと思います(兵士Aなら胃潰瘍でぶっ倒れること間違いなし(笑)。そもそも司令部の命令が無茶なんだから、開き直って一番博打性のある作戦を取ったとも考えられますね。

いずれにせよ、この作戦の背後には相当に強力な情報戦力と技術戦力が必要だったと思われるんですが、原作にはそこらへんはあまり書いてなかったような記憶があります。でもまあ、諜報戦で暗躍するヤンなんてヤンのキャラが変わっちゃうし、要塞制圧戦でコンピュータハッキングの熾烈な闘いが微に入り細に入り展開されては話が変わっちゃう(第一それでは私の大好きな薔薇の騎士が活躍しないではないか!)ので、これはこれでいいのかも。<どっちやねん(笑)

あ、でも凄腕ハッカーなヤンてのもいいなあ。犀川先生(@森博嗣)みたいで。

(2005.4.24)




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