イゼルローンのタコ部屋。

Correspondence ――― 往復書簡(翻訳)&無駄な解説&謝辞


宇宙暦787年6月10日


ウェンリー先輩

こんな…こんな手紙、しかも毎日寮で顔を合わせているようなやつから受け取って、さぞ驚いてらっしゃることと思います。 先輩をわずらわせるつもりはありませんが、どうしても書いておきたくて。顔を見て言いたかったんですけど、ちょっと今俺、臆病者になってるみたいです。

まずはじめに、ご卒業おめでとうございます! 卒業できなかったと聞かされるはめにならなくて、本当に肩の荷がおりた気分で……いや、冗談ですってば。

先輩と過ごした月日を思って、改めて「光陰矢のごとし」という言葉の意味がわかりました。きっと覚えてらっしゃるでしょう、塀の上にいたデカくてエラそうな野良猫を見つけた夜のことは。例の「幸運の鍵」(俺にとってはぜんぜん幸福じゃない話、しましたよね)にこのすごい幸運を感謝したもんです。あ、もちろん、門限破りの罰を逃れられたことじゃないですよ、一番の親友(って呼んでいいですか)に出会えたことですからね。

この士官学校で先輩とすごした二年間は、決して忘れられないでしょう。ごちゃごちゃの寮の部屋で酒を飲んでは一晩じゅう語りあったこと、校庭の樫の木の木陰で飯食って昼寝したこと(しょっちゅう寝過ぎて遅刻しましたけど)、図書館の隅の先輩お気に入りの場所で昼寝をむさぼっていたこと……うーん、寝てたことばっかりですね! もちろん戦術艦隊指揮の授業でのシミュレーション戦闘で、二人であげた奇蹟の勝利もよく覚えています。シミュレーションのペアを組めたときに、俺がどれほど狂喜乱舞してぞくぞくするほど自慢に思ったか、きっと先輩には認めていただけないかもしれません。この際だから言いますが、俺にとって先輩は一番敬愛する人です。士官学校での生活が、こんなにすばらしいものになるなんて、夢にも思っていませんでした。

本当に、今までよくして下さってありがとうございました。そしてこれこそ一番言っておきたいことですが、あなたという人間、その知性、知識、独特の考え方、そしてあなたのすべてを、自分はこれからもずっと尊敬し続けます。

しばらくお会いできないのは本当に淋しいですが、そう長い別れでもないでしょう。先輩を追いかけ、追いついて、いつかきっと並んで歩けるようになりたいと思っています。 先輩の成功と幸運と満足をこれからも心から祈っています。それからもう一つ、先輩の幸福な年金生活を祈るに俺はやぶさかではありませんが、でもできれば俺が先輩に追いつけるまではちょっと待っていただければ嬉しいです。

こんな汚い手書きの手紙を読んで下さって、本当にありがとうございました。これからもときどきこんな風に手紙を書いてもよければ幸いです。

これからも連絡が取れるように、もちろん落ち着き次第でいいので、先輩の新しいメールアドレスを知らせて戴けませんか。

かぎりない感謝と尊敬を込めて

ダスティ


宇宙暦787年6月21日


ダスティ

新しい時間割はどうだい? おまえも今年は三年生、上級生として誰かさんみたいな門限破りを見張る役回りなんだな。

私は元気だ、ここシリューナガル-III基地で実地訓練(白兵戦と船外活動)にあけくれているという事実を横においておくならば。同盟と帝国の長くてマンネリな歴史について考える時間さえない。たぶんそれは、新兵に対するお偉方からの深遠なる思いやりとでもいったものかもしれないが。

それから、手書きの手紙をありがとう。だが、そう、あのとき手渡ししてくれればよかったのに。私は式のあと、おまえを捜していたんだよ。おまえは感謝やら意見やらを一方的に「おまえの」視点で書いてきたけれど、でも私だって、あのときにありがとうと言いたかった。

だから今、ここに書いておく。おまえの友情と、そしていてくれることを、本当にありがたいと思っている。おまえとジャン・ロベールがいなかったら、わたしの士官学校での四年間はさぞ退屈で悲惨なものだったろう。

卒業を楽しみにしているよ。そうしたらおまえが出世街道に乗って走っていくのを横からぼうっと見ているから。どっちにしろ、二年働いただけじゃ軍人年金は出やしないしね(そうだったら素晴らしいんだけどなあ)。

正式な任官と配属が決定するのは来月になるそうだから、このeメールアドレスはそれまで使える。また書くよ。

それでは。身体に気をつけて。

ウェンリー



<副題:卒業式の告白> ←笑うとこです。

当サイトの譫言のような「前略ヤン・ウェンリー様」を受けてPeccata Mundiの遊佐薫さんが、ヤン&アッテンボローの往復書簡を書いてくださいましたが、それに舞い上がった私は薫さんへのありがとうメールに、勢い余ってアッテンボローのラブレターを叩き込んでしまいました。推敲ほぼナシ。人間、欲望のままに突き進むと碌なことをしでかしません。そうしたらなんと、薫さんがそれにヤンの返事+和訳、さらに私のとんでもないブロークンイングリッシュを校正してくださいました!

私的勝手な設定としては、卒業間際の先輩に出したラブレター(爆笑)、手書きでゴリゴリ、部屋のドアの隙間から投函(いつの時代だ)。本人ラブレターのつもりじゃないのに貰った先輩悶絶、を目指しました。はい、明らかにやりすぎました(笑) ヤン先輩(薫さん)に呆れられ、「学校の用箋にラブレター書くなよなー」という突っ込みをいただき(いや絶対コイツ授業中に書いたって!/笑)、そしてお返事その他までいただいちゃったという。羞恥心を売り渡した収穫はデカかった!(嬉)

すでに薫さんのサイトでこちらに公開されておりますが、あんまり嬉しくて自分の手元にも欲しくてこんなページ作っちゃいました。

あらためて薫さんにこの場で御礼を。本当にどうもありがとうございました! そして、お手数かけまくりで申し訳ありませんでしたッ……! でもお互いに添削・校正をやりとりする過程で薫さんとプチ往復書簡状態になったのは、ひそかにかなり嬉し楽しゅうございました。それにしても、何より痛かったのはアッテンのレターの内容よりも、私の英語でしたねー。メールに書いたあのまま公開していたらプレイどころじゃない恥そのものです。あんなスゴイもん読ませてホントすみません。でも私のはがっつり添削+校正していただいちゃったので、これで羞恥プレイは君らだけだね!(笑)>ダスティ&ウェンリー

(2005.8.28)


<前略ヤン・ウェンリー様<原文


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