イゼルローンのタコ部屋。

銀河歌声喫茶 Vol.4

NYC MAN

あなたに傷つけられたら、もうどうしたらいいかわからない
それが偶然にも三月の凶日にでもぶちあたってたりしたら
あなたが単刀直入だったらいいんだけど
あなたがそんな思いをすることなんかないんだ
だって俺はニューヨークシティの男
だから言えばいい、「行け」って、それだけのこと

ニューヨークシティの男
あなたは「行け」って言いさえすればいい、それだけのこと
俺はニューヨークシティの男
あなたは「行け」って言いさえすればいい、それだけのこと

うーん、こんがらがりすぎてるな、嘘を吐くには
いちいち憶えていなければいけないし、第一何故そんなことが必要?
あなたのそばにいようとは思わないよ
あなたがそばにいて欲しくないと思うのなら
だって俺は男だし、オ・ト・コ
あなたが瞬きする間に消えるよ

男だし、オ・ト・コ。瞬きしてみて
ハニー、愛してる、だから俺は消えるよ
ニューヨークシティの男
瞬きする間に消えてみせる

ブルータスはいいスピーチしたけど、カエサルは裏切られたし
マクベス夫人は気が狂ったけどマクベスは殺されて終わった
オフィーリアとデスデモーナは死んだ、ハムレットを劇に残したまま
だけど俺は盲目のリア王じゃない。「行け」って言って、消えるから

星たちは目蓋をかたく閉じ
地球は軌道を変えて
王国は黒い騎士の背後に鎮座する
その騎士が宝石を散らした馬に乗ろうとするさきから
蝶で満ちた時計は時を打ち
無数の蛾を放つ
あなたが「去れ」と言えば俺は消えるよ
未練なくきっぱりと
手紙もFAXも、電話も、涙もなしで
良くないってのと最悪ってのは違うんだ

ニューヨークシティの男
瞬きして、その間に消えるから
俺はニューヨークシティの男
瞬きする間に消えてみせる

俺はニューヨークシティの男、愛してる
俺はニューヨークシティの男
俺はニューヨークシティの男、こんなに愛してる
瞬きして、その間に消えるから
ひとつかみの砂粒のように
ニューヨークシティ……ああこんなに愛してる
ニューヨークシティ……
瞬きして、そしてあなたも消える
ああこんなに愛してる

(Lou Reed/訳:巽堂)
"NYC MAN History of Lou Reed 1967-2003" Lou Reed (BMG,2003)

アッテンボローによるヤンに捧げるラブソング(笑)
先輩のためなら都合のいい男にだってなってみせますなアッテンボローですから。下僕攻め万歳。

というわけで、ルー・リードの今度はちょいアップテンポな曲(バラードづいてましたからな)。これも有名な曲ですね。ルーの歯切れのいいニューヨーク訛りと、歌っているというよりスキャットに近い歌い方が魅力。

曲想からすると二人称は「あなた」より「君」とか「おまえ」にしたほうがしっくりくるんだけど、アッテンボローがヤンに向かって逆立ちしたってそんな言葉遣いしそうにないので、泣く泣く却下。アッテンボローはイギリス人、それもロンドンっ子(中産階級以上)だとかたくなに思っているんですが、唯一の例外としてニューヨークっ子でも許します。とにかく都会っ子な印象がある。ヤンは転勤族。<なんか急に卑近。

そこかしこがイロイロおいしいこの歌ですが、まずは「あなたが単刀直入だったらいいんだけど 」のくだり。設定としては、後輩君が勇気を出して先輩に告白したあと(と勝手に断定)。後輩君はもう覚悟が固まっているけど、先輩は半分パニック状態で自分の気持ちもはっきりしない。きっと気の迷いだろうから、なんとか諭して軌道修正してやろうなんて、何もわかってないことを思っていたりする(と勝手に妄想)。そう考えるとこのくだり、自分でもナニ言ってるのかわからなくなってるヤンらしいと思いませんか。「気持ちは嬉しいけど、そのう……一応男同士だし、うーん…」とかなんとか。このアホ。つべこべ言わずにつきあっちゃえ!(出た本音)

それから、「未練なくきっぱりと」と訳したところ。原文ではwithout any remorseとなっていて、これ辞書を引くと最初に出てくるのは「容赦なく」なんですね。口では「消えるよ」なんて言っておきながら、「ほんとに俺が消えちゃっていいワケ?」とちょっと意地悪にプレッシャーかけている後輩君が目に浮かぶではないですか。この策士め。結局ヤンはアッテンボローが傍にいなくなるなんて耐えられないのでOKするしかない。だから最初から無駄なあがきですよ、ヤンさん(笑)

(2005.5.15)



<銀河歌声喫茶に戻る
TOPMAP

巽堂/Tatsumidou