イゼルローンのタコ部屋。

銀河歌声喫茶 Vol.5

DIRTY BLVD.

パドロはウィルシア・ホテルの外で暮らしてる
ガラスのない窓から外を見て
壁はダンボール張り
足の下は新聞紙
物乞いに疲れたからって親父はパドロをぶつんだ
9人の弟妹がいて
みんな膝まずいて育った
腿をコートハンガーで殴られたんじゃ逃げるのは難しい
ペドロの夢は大きくなって親父を殺すことだ
だけどそれもわずかなチャンスだ、ブルヴァードに行くんじゃな
ヤツももう終わりだね
抜け出すのさ、ダーティ・ブルヴァードへ
落ちていくのさ、ダーティ・ブルヴァードへ

この部屋は月2000ドルするんだ
信じられるか? でも本当だ
チビっちゃうくらい笑いの止まらない家主がどっかにいるのさ
医者とか弁護士とかになろうなんて夢見るヤツなんかいやしない
ただブルヴァードでなんとかやっていこうって思うだけだ
汝の飢え、疲弊、貧困をお寄越し、小便ひっかけてやろう
偏狭の女神様が言う
汝ら貧しい大衆よ、やっちまえ
そんなもの全部ブルヴァードに捨てちまって終わりにしな
そして抜け出すんだ
抜け出すのさ、ダーティ・ブルヴァードへ
落ちていくのさ、ダーティ・ブルヴァードへ
抜け出すのさ、ダーティ・ブルヴァードへ

外は明るく輝く夜、リンカーン・センターにはオペラが掛かってる
映画スターがリムジンで乗りつける
クリーグライトがマンハッタンのスカイラインを照らし上げる
だけど貧しい街に光は射さない
小さな子供たちがリンカーン・トンネルのわきに立って
バラの造花を1セントで売っている
道路は39番街まで渋滞
TV娼婦が警官に声を掛けている
ウィルシアに戻って、パドロは座り込んで夢見ている
ゴミバケツで魔法の本を見つけたんだ
写真を眺め、ひび割れた天井を見つめ
三つ数えて、ヤツは言った「ここから消えていなくなりたい」
このダーティ・ブルヴァードから飛び去るんだ
このダーティ・ブルヴァードから飛び去りたい
このダーティ・ブルヴァードから飛び去りたい
飛んで、飛んで、このダーティ・ブルヴァードから
飛びたいんだ
飛んで、飛んで
飛びたいんだ
飛んでいきたい

(Lou Reed & Fred Maher/訳:巽堂)
"NYC MAN History of Lou Reed 1967-2003" Lou Reed (BMG,2003)

ポプランのイメージソング。これもルー・リード。

こういう歌を口笛まじりでくちずさんでいそう。自分とかぶるところがあるなんて口が裂けても言わない。「俺様は育ちがいいからな」とでも嘯くのです。

最後のリフレイン、"Fly!"を聴いていて、何故だか『キャッチ=22』の最後、ダンビー少佐が脱走するヨッサリアンに叫ぶ「飛べ!」が重なって仕方なかったんですが、『キャッチ=22』のほうは"Jump!"だった。高飛びしろ、ですね。どっちにしろ、そんな現実からは「逃げろ!」には違いない。空軍というのでリンクしてしまったのか。

脱線ついでに書いてしまおう。ジョーゼフ・ヘラーの小説『キャッチ=22』は傑作です。戦争の不条理と馬鹿馬鹿しさを真っ黒な笑いのうちに突きつけてきます。あまりに知名度が低いことに義憤を感じ、細々とこの小説を布教することを勝手に使命と任じていますので、ここから紹介文にリンクしておきます。興味を持たれたら是非。

(2005.5.18)



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