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『13日間 キューバ危機回顧録』 ロバート・ケネディ/毎日新聞社外信部 訳 (中公文庫)

 ジョン・F・ケネディ大統領の弟、ロバート・ケネディ(当時司法長官)によるキューバ危機の回顧録。1962年の話。このあたりの時代は背景をさっぱりわかっていません。自分が生まれた前後の年代って、時代認識にぽっかり穴が開いている気がする。それ以前だと歴史として聞いたり習ったりしているし、物心ついた後はおぼろげにも記憶があるので把握しやすいと思う。当時のアメリカにとってキューバは咽喉元の刃というのはぼんやりとわかる。だからそこにソ連がミサイルを持ち込んだらアメリカがいきり立つのは理解できるけど、もしアメリカがキューバを攻撃したら、ソ連によるその報復がベルリンに向かうと想定されているあたりがよくわからない。ベルリンの壁ができるあたりの経緯を知らないのが致命的なんですね。私の場合、物心ついた頃にはすでに安定した(というべきなのかどうか)冷戦時代だったので。

 この本の調子は全体として「米ソトップがともに理性的な協議を持って一触即発の危機的事態を乗り切り、核戦争を回避した」というキレイなまとめなんだが、そこに至る詳しい経緯を知らない私なぞは単純に、そもそもそこまでの事態を作り出したのは自分たちなんじゃん、と思ってしまう。ケネディ大統領は強硬論を唱える軍部を抑えつつ核戦争を回避するのに苦悩するけれども、自業自得の危機を乗り切って自画自賛されてもなあ…と。まあでも、そこまでの状況を作った責任はケネディ大統領一人にあるわけではないし、この本に書かれている内容がある程度事実だったとして、彼が打った策は現実的で非常にまともで立派だと思いました。

 ソ連がキューバにミサイルを持ち込んでいる証拠を掴んだ後のアメリカ首脳部内で、キューバへの布告なしの先制攻撃という対応案がさも当然のことのように持ち上がるのには驚き。アメリカの根本的なタカ派体質を承知していても、改めて驚きです。だってそれじゃまるっきり真珠湾攻撃、彼らがいつも批判するパールハーバーと全く一緒だろうに。面白いのは、ケネディ大統領の国内向け演説と、フルシチョフや国連事務総長代行に宛てた書簡に温度差があること。国内向け演説のほうが強硬姿勢を演出していて、ソ連や調停役の国連に対する態度のほうが柔らかい。ちょっと調べてみたところ、ケネディはキューバに対して強硬姿勢を取るという公約をして大統領選に勝ったらしい。こういう国でリベラル派が大統領をやるのは本当に大変ですね。むしろブッシュくらいのほうが本人には悩みがなくていいのかも。

 ついでに言えば舛添要一が解説でケネディとジョージ・W・ブッシュを同列に扱っているけど、なんてことをしやがるんですか。この本を読めば全然違うというのが明白でしょうが。


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 この本を読んでいる間に、関連するケネディ大統領の演説の原文を探していたら、弟(著者)のキング牧師暗殺に寄せての演説が先に見つかりました。柄にもなくとても心にしみたので、愛を込めて訳してみました。他に置き場所もないので、ここからリンクしておきます。ヘタレ訳への突っ込み大歓迎。

 マーティン・ルーサー・キングの死に寄せて(ロバート・ケネディ、インディアナポリスでの演説)



(2005.6.21)


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