イゼルローンのタコ部屋。
銀河歌声喫茶 Vol.2
After Hours (Twelve Bars Past Goodnight)
祭りのあと(すべてのバーが閉じたあと)
ギャングたちもみんな家に帰ってしまって
街角に立っているのは
わたし一人
あなたとわたし、街灯の下で
街を塗りつぶしてしまおう―――灰色に
ああわたしたちは沢山の迷える子羊で
どこに向かったらいいのかわからない
おやすみなさい、アメリカ
世界はまだ夢見る人を愛してくれる
ギャングたちもみんな家に帰ってしまって
街角に立っているのは
わたし一人
(Rickie Lee Jones/訳:巽堂)
"RICKIE LEE JONES" Rickie Lee Jones(Warner Bros. Records Inc.,1979)
帝国との講和後のアッテンボロー。
これまたリッキー・リー・ジョーンズ。ごく短い、オルゴールのように可憐なバラードです。
積年の大仕事を終え、お祭り騒ぎの熱狂も醒め、集まっていた人々もそれぞれの場所に帰って一人になったとき、ふっとこんなふうに、「俺はいったい何をやってたんだろう」という気持ちになるんじゃないだろうか。それって悪いことじゃないと思う。渦中にいるときはどうしても客観的な判断ができない部分があるから、「何をやってた」のか自分で整理して気持ちを片付けることで、次にどこへ向かえばいいのかわかるんだと。
「おやすみなさい、アメリカ」の「アメリカ」は、適宜「イゼルローン」でも「ハイネセン」でも「ユリシーズ」にでも読み替え可。
アッテンボローは一人称「わたし」でもいけるのがいいですね(ヤンもそうですが)。街角にひとりでいるはずの「わたし」なのに、その後出てくる「あなた」は誰なのか? 生身の人間じゃないと考えるべきでしょう。常に精神的にアッテンボローとともにあった人。その人の幻影を見ながら、寝静まった夜の街を歩くのだ。学生のときのように。世界を自分たちの色で塗り替えられると無邪気に信じていた頃を思い出しながら。悲しくも幸福な時間だと思います。
無粋な訂正。
あなたとわたし、街灯の下で
街を塗りつぶしてしまおう―――灰色に
ああわたしたちは沢山の迷える子羊で
どこに向かったらいいのかわからない
の部分です。原文はこう。
You and me, streetlight
We'll paint the town - grey
Oh, we are so many lamps
Who have lost our way
You and me, streetlightの繋がりに苦しみ、lampsの意味を取りかねた私は、多分歌を聴いていたときの印象のせいでしょう(lambsに聴こえた)、lostとの繋がりからlampsはlambsの誤植で「迷える子羊」だろうと思ってしまいました。
しかし。You and me, streetlightを「あなたとわたしは街の灯火」と取る訳を目にして、Eureka! と叫びたいくらい、すとんと腑に落ちました。そうすると「灰色に塗りつぶしてしまおう」への流れも自然。lampsはlampsでいいわけです。ああ思い込みって恐ろしい。
この秀逸な解釈を教えてくださったのはPeccata Mundiの遊佐薫さんです。目から鱗の快感と素敵な作品への感激の合わせ技ありがとうございました! ちなみに問題の部分の薫さんの訳はこう。
ああ俺たちは幾千もの光
行く先を失った光
ああこの言葉の選び方。大好きです。
薫さんはこの歌にもイメージ小説を書いてくださっています。薫さんのサイト内に公開されていますが、通常のStoriesにはありません。あなたのワンアクションが必要な場所にあります。是非ワンクリックして(これで大体場所がわかりますか/笑)素晴らしい余韻を湛える作品を味わってくださいませ。
本来、私の訳も作り直すべきですが、この流れも誤訳ながら結構気に入っていたりしますし(あーあー自画自賛)、今後の戒めにするためにも羞恥プレイ状態で晒しておこうと思います。人生とは恥をかくことの連続である。<お前が言うと身も蓋もない…
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今頃に小ネタ。
(2005.5.10/8.21/2006.4.8 revised)
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